元自衛官ライターの情報発信室

元自衛官ライターが「食」「運動」など、人生の重要度ランキングトップ「健康」にまつわる情報をお届けするブログ

日本の発展に人工知能を使い倒せ

 

 人工知能(AI)技術の長足の進歩に、目玉が飛び出るほどの衝撃を覚えた人もいるのでしょう。米グーグル傘下の英企業が開発した人工知能の「アルファ碁」が、世界トップ級のプロ棋士である韓国の李世●(石の下に乙、イ・セドル)九段との対局で4勝1敗と勝ち越したのです。

 これまでもコンピューターがチェスやクイズ番組で人間のチャンピオンを下したことはありましたが、囲碁はその奥深さや局面の数の多さゆえに、あと10年は人間がコンピューターに勝ち続くとみられた分野でした。

 

                                               「頭脳の限界」を超える

 だが、技術の進化は私たちの思い込みをあっさり覆しました。脳の神経回路をまねた「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる先端技術を取り入れ、AI同士での対局を繰り返すことで、メキメキと腕を上げました。

 時には直感や勘で最適解を選び出す人間的な思考方法や判断力を、機械が身につけ始めたといえるかもしれません。

 歴史を振り返しますと、かつての産業革命の本質は動力革命で、人類を「筋肉の限界」から解き放っていました。蒸気の力で機械を動かすことで工業生産が飛躍的に伸び、蒸気船や鉄道の登場で大量の物資を安く遠くに運ぶことが可能になったのです。

 しかし、今起きているのは「頭脳の限界」からの解放だという指摘もあります。これまで人間だけが行ってきた認知や判断、推論などの頭脳労働を機械が支援したり、代替したりすることが広い領域で可能になり始めました。

 こうした技術革新の波は社会に様々な恩恵をもたらします。富士重工業が先導した車の自動ブレーキは周囲の車両や歩行者をカメラで検知し、危ないと判断すれば運転手に代わって機械がブレーキを踏みます。そうした仕組みで交通事故が6割減らすことに成功したのです。

 このシステムを画像診断にAIを活用すれば、医師が見逃しかねない微細な病気の兆候を高い確度で発見できるでしょう。人の集まる駅や競技場で監視カメラを通じて怪しい動きをする人を特定し、テロなどの防止に役立てるシステムにも活用できます。

 また自動翻訳の技術が進むと、電話のこちら側で日本語を話せば、向こうでは自動的に英語に訳されて、外国人とストレスなく会話できる時代が来るかもしれないでしょう。

 AIやコンピューターの進化はより良い社会や生活を実現するための推進力であり、日本としても官民挙げて進めなければならない大きなテーマです。

 そこで重要なのがソフトウエア関連の技術力を磨くことです。日本企業はものづくりに強みを発揮します。しかし、ソフトやアルゴリズム(計算手法)の分野では存在感が薄いのが気がかりなのです。

 自前の人材育成に時間がかかるのであれば、トヨタ自動車リクルートのように米シリコンバレーに研究拠点を設け、米国のトップ級の人材を招き入れるのも一案にあります。政府や大学もこの分野の人材育成に力を入れる必要があります。

 自社以外の企業や大学、研究機関と柔軟に連携する「オープン・イノベーション」も重要になります。例えば医療分野でのAI活用を進めるには、医学とコンピューターという異なる領域の「知」を結合しないといけません。手持ちの技術や人材だけに頼る自前主義では、ブレークスルーはおぼつかないのです。

 

                                            人と機械をバランスよく

 社会にとっても、AIやロボットに代表される新技術とどう向き合うかは大きな課題です。革新のスピードが速く、社会がめまぐるしく変化する時代は、人々の不安が高まる時代でもあります。

 野村総合研究所は昨年12月、10~20年先には今ある仕事の49%がAIやロボットで代替できるようになる、との調査結果を発表しました。この発表が各方面に衝撃を与えました。

 一方で労働人口が減る日本にとって、人を補助するロボットなどの進化は経済にとってプラスという見方もあります。

 機械と人が「仕事」をめぐって争うのではなく、互いに協業して価値を生み出す社会をめざしたいのです。介護サービスでは力仕事をロボットが担い、心の触れ合いは人間が引き受ける。そんな役割分担が社会の様々な分野で進むのが望ましい姿なのです。

 新しい技術と法規制や人間固有の倫理観をどう調和させるかについても、議論を深めるときです。

 「完全自動運転車の事故に責任を負うのは誰か」「意識や心を持ったロボットをつくってもいいのか」といった、すぐには答えの出ない問題も多いです。しかし、人の生活を便利にする「技術の進化」で生まれる課題を真正面から受けとめ、それをうまく生かすことで、新たな未来を開けます。